勘九郎・七之助の兄弟共演と「寺子屋」で子を思う幸四郎さんの涙

秀山祭九月大歌舞伎の第一部は、
一幕目が宮本武蔵の武勇伝をモチーフにした平成11年の新作

「白鷺城異聞」、二幕目が名作「菅原伝授手習鑑から『寺子屋』」でした。

「白鷺城異聞」は、自分の出身の熊本と縁のある宮本武蔵のお話ということで、まずそれだけでも興味をそそられました。宮本武蔵が晩年を過ごした熊本では、熊本大出身の漫画家が「バカボンド」を描いたり、宮本武蔵をテーマにした市民ミュージカルが企画されたり、「宮本武蔵」をテーマに大いに盛り上がっております。個人的にもその市民ミュージカルに参加したことがあったりして「宮本武蔵」と聞くとどうしても親近感を持ってしまいます。

武蔵さん自ら、自分のこれまでの武勇を語るシーンでは、「巌流島」「佐々木小次郎」などおなじみのキーワードが出てくると何だか胸が熱くなりました。

以前、大河ドラマ「武蔵」で海老蔵さんが演じていた宮本武蔵のことも思い出したりしました。

とはいえ、この「白鷺城異聞」の見所はまだまだあって、
演目の舞台の姫路城に住み付く亡霊「刑部姫」として中村七之助さん、姫路城に住む、徳川家康の孫・千姫の元夫の豊臣秀頼の亡霊として中村勘九郎さんが登場します。この二人の登場時のオーラはやはり違いますね。七之助さんの妖艶さと、勘九郎さんの存在感。兄弟の共演(競演)が見られて、大満足でした。

もう一つの見どころは、妖怪を表すのに、液晶パネル?のようなものが使われていたことでした。あまりにリアルで私は映像なのだと気づかなかったのですが、連れで一緒に見に行った会社の先輩が気付いて、「あれは新しい演出!あの演出を見れただけでも久しぶりに見に来た甲斐があった」と喜んでらしたのが印象的でした。
新作ということもあって、演出の挑戦もしやすかったのでしょうか。このように、伝統を守りながらも絶えず変化し続けるところが歌舞伎の魅力でもあります…!

二幕目は「菅原伝授手習鑑の『寺子屋』」で、演目としては見るのは二度目でしたが、
最後には親子の絆と悲劇に胸打たれ切なさで一杯になりました。

今回は、中村又五郎さんの孫であり、中村歌昇さんの長男・次男のお子さんたち揃っての初舞台でもありました。それもあってか、同じ保育園/小学校のお友達と思われる子供たちも観客席にいたのが印象的でした。子供たちは一丁前に一人ひとりイヤホンガイドもつけてもらって、いい服をしてきちんと座っているのですが、退屈した際には隠せなくて、身をよじったりキョロキョロするものの、ちゃんと演目の盛り上がるところでは笑ったり見入ったりと反応が素直でその観客席の様子も含めて微笑ましいものでした。
子供たちが元気よく(中には大人が演じる「大きな子供」もいて滑稽に)お習字をしているシーンから始まり、鼻やほっぺに墨をつけた子供たちの姿に、観客の間にも笑いが漏れていました。子供たちの親御さんが寺子屋に迎えに来るシーンも可愛らしく、(一人ひとり順番に帰っていくところが、個人的には、全然分野が異なりますがあの映画「サウンドオブミュージック」の「クック〜」という歌での退場シーンを彷彿とさせ)印象的でした。中でも「大きな子供」を迎えに来た親御さん役は、同じく「大きな」坂東彌十郎さんで、その親子のコミカルな掛け合いも見どころの一つでした。それにしても彌十郎さんの声の通りの良さと、農民役に扮しても隠せない存在感はさすがでした。

そして松本幸四郎さん演じる松王丸の威厳も見事で、後半の、我が子を思い、涙を流すシーンとのギャップも切なく、見ものでした。
松王丸とそのご婦人は最後、白装束になられたので、まさか我が子を身代わりに差し出した罪悪感で切腹をするのかと思いましたが(前回見たときの展開をはっきり覚えていなくて)、そうではなく弔いをされるための白装束でした。お焼香の香りが観客席まではっきり届いて、古典歌舞伎なのにかなりノンフィクションのような臨場感でした。
一幕目は、話の急展開と、華麗な舞踊で胸躍り、二幕目は、伝統歌舞伎ながらの間と熱のこもったセリフで作る切なさが胸に染み入り、どちらも世界に没入して贅沢な時間を過ごさせていただきました。感謝感謝です・・・!